タイアップ小説『暑い夜』

初出:
2000-02-15

 モーターのかすかな唸りと水滴の音で目を醒ます。またいつの間にか眠ってしまったらしい。

 今この狭い空間内で唯一働いているマシンは、シァープ製の乾燥除湿清浄機。快適除湿と衣類乾燥機能の他に空気清浄機能もついたすぐれもの。

 新原理のコンプレッサーにより従来より格段の静粛性と低消費電力を実現した画期的な新製品。

 エアコンもない蒸し暑いこの部屋でどうにか眠りにつくことができるのは、このシァープ製の乾燥除湿清浄機が湿度を下げてくれるからこそだった。導入しておいて良かった。

 とはいえまだこの部屋は暑い。

 空気中の湿気から抽出した水にコンプレッサーの廃熱を吸収させているから、昔の除湿機のように廃熱が室温を上げるようなことはないのだが、それでも暑い。

 タンクに溜まった排水の量からすると、二時間くらいは眠ったのだろう。事態はあれから全く変わってはいないが。

 仕事中に起きた大地震らしい衝撃で、この狭い潰れた空間に閉じ込められてから一体どのくらいの時間が経ったのだろう?

 身体はどうやら無傷のようだが、瓦礫に挟まれた足が動かせない。幸いまだ送電はきているようなので、思いのほか頑丈だったシァープ製の乾燥除湿清浄機は動いてくれている。

 今となっては辛うじて手が届く排水タンクに溜まった水が命綱だ。

 この蒸し暑い空気の中から水を抽出できる間は何とか生きながら得ることができるだろう。

 それができなくなったときは……。

 それにしても一体どのくらいの規模で被害が出たのだろう?

 今のところ救助どころかひとの声すら聞こえてこない。

 果たしてこの先連続稼働によるオーバーロードでシァープ製の乾燥除湿清浄機が故障するのが先か、それともやがて停電してしまうのか、それとも……。

 ひとまずスイッチを切り、タンクにひとしずくが落ちたのを確認してから、廃熱でぬるくなった水をひと口含み、口腔粘膜にまんべんなく渡してから、ゆっくとり飲み込む。

 ……ココを出たら、真っ先に冷えたビールを浴びるほど呑むことにしよう。

 生きて出られたのなら――。


初出:99/08/06
nifty:SSHOIN/mes/12/#1935
#まさかこのあとに台湾がああなるとはねェ……。


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