宇宙世紀の『プロジェクトX』〜ソーラーシステムを作った男たち〜

初出:
2001-12-01

ナレーション稿(NA:田口トモロヲ)

 宇宙世紀0079年、宇宙標準時12月27日。難攻不落と言われたジオン公国宇宙攻撃軍の要塞ソロモンは陥落し

 宇宙空間での大規模な戦闘をほとんど経験したことのない地球連邦軍のモビルスーツ隊が勝利することができた陰には、のべ400万枚のソーラーパネルからなる凹面鏡を操って、緒戦でソロモンにダメージを与えた男たちの姿があっ――。

(OPテーマ:中島みゆき『地上の星』)

 ――地球にある『アナハイム・エレクトロニクス』の高度群体制御部門に籍を置くアツオ・カグミはその日、上司から呼び出しを受け

 地球連邦軍の技官も同席した開発室で、上司はカグミに告げ

『三カ月後に予定されているソロモン海戦で使用する予定の要塞攻略兵器、ソーラーシステムを我が社が受注することになった。ひいては君に開発の指揮を取って欲しい』と。

 核爆弾やコロニー落としのような大規模破壊兵器の使用は、すでに南極条約で禁じられてい

 代わりに無数の鏡からなる巨大な凹面鏡――ソーラーシステムをサイド1の残骸の陰に配置し、太陽からの光を集束させて、ソロモンを構成する小惑星表面に幾漠かのダメージを与えてからモビルスーツ隊を取りつかせたい。

 ソロモンまでの距離と要求される熱量から逆算した結果、必要なソーラーパネルの数は、一枚あたり10m×20mとして約400万枚。

 パネル一枚当たりの重量は、位置の微調整に必要なバーニアスラスターと推進剤を含めて2kg以内。

 これが連邦軍が示した条件だっ

 無重力状態とはいえ、400万枚余りのソーラーパネルを凹面鏡状に配置して、一点に焦点を合わせる制御技術は尋常ではない。

 しかもこれだけの規模であれば、必ず敵に発見される。

 発見されてから反撃されるまでのわずかな時間の間に、すべてのミラーを展開して焦点調節をしなければならない。

 しかも期限は三カ月。実現はとうてい不可能だっ

『解りました。やらせていただきます』

 カグミはジオンのコロニー落とし作戦で、家族を失ってい

 (略)開発は困難を極め(略)
 (略)開発は失敗の連続だっ(略)
 (略)開発は最初から難航し(略)

 そして史上最大の凹面鏡から集束された光は、ソロモンを灼い

 推定数万ギガジュールの熱は、照射された小惑星表面の岩盤のみならず、内部に至るベイブロックまでも溶解してい

 この未知の兵器による攻撃でジオン軍の指揮系統に混乱が生じ、その隙に連邦軍のモビルスーツ隊はソロモンにとりつくことができ

 しかし照射開始から数分後、小惑星に推進装置を付けただけの大質量兵器、衛星ミサイルがソロモンから放たれ、直撃を受けたソーラーシステムはミラー群の半数近くを制御不能なまでに吹き飛ばされてい

 かくして連邦軍の要塞攻略兵器ソーラーシステムは、その使命を終え

 わずか二分の照射だっ

 ソーラーシステムの沈黙後、ソロモンを統べるジオン公国宇宙攻撃軍司令ドズル・ザビ中将は、 月面グラナダ基地に駐留する姉・キシリアのジオン公国突撃機動軍に援軍を要請することなく、試作重モビルアーマーを駆って自ら出撃するも、戦死。

 指揮官を失ったジオン公国軍は、壊滅的なダメージを受けたソロモン要塞を放棄し、ソロモン海戦は連邦軍の勝利に終わっ

 この作戦以降、連邦軍によるソーラーシステムの開発が行われることは、なかっ――。

(EDテーマ:中島みゆき『ヘッドライト・テールライト』)


参考文献:みのり書房刊『ガンダムセンチュリー』、大日本絵画刊『月刊モデルグラフィックス』 vol.67、69

初出:01/10/02 nifty:sshoin/mes 12/#2190


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