フェアリイ星の『プロジェクトX』〜儀仗兵団をつくった男たち〜

初出:
2003-10-09

「全体、止まれ!」
「右向け、右!」
「捧げ、銃!」

(N.A:田口トモロヲ)

 ――一糸乱れず行進する兵士たち。

 上官の号令の下、整列した兵士たちが一斉に捧げ銃の態勢を取る。

 寸分の違いもなく協調動作の取れる彼らは儀仗兵団として正式に組織されてはいるが、実は人間ではない。

 ロボットなのだ。――

(OPテーマ:『地上の星』/歌:リディア・クーリィ)

 ――酷寒の地、南極大陸。

 このさいはての地の更なる奥に、今日も地球防衛のために戦っている男たちがいることを、人類のほとんどは知らない。

 南極大陸に打ち込まれた侵入路を通って、のちにジャムと呼ばれる未知の脅威が人類の前に立ちはだかったのは、今から33年前のことだっ

 当時の超大国を中心とする国連軍は辛くもこれを撃退し、南極大陸ロス氷棚に出現した超空間通路の向こう側に存在する未知の惑星――フェアリイにまでジャムを押し戻すことに成功し

 国連はその後地球防衛のための軍事組織、フェアリイ空軍―FAF―を創設し、主戦場がフェアリイ星に移ったあとも現地に基地を建設して、引き続き防衛の任に就かせ

 そして現在に至るも依然としてジャムの正体は謎のままであり、惑星フェアリイを主戦場としたFAFとジャムの戦いも、終わってはいなかっ――。

 ――その日、戦術空軍団フェアリイ基地戦術戦闘航空団特殊戦第五飛行戦隊所属のジェイムズ・ブッカー少佐は、上官である特殊戦副司令官、リディア・クーリィ准将から呼び出しを受け

 『二週間後、フェアリイ基地に地球から日本空軍の参謀司令が視察にやってくる。ついては歓待のための儀仗兵団を君に組織してもらいたい』

 ブッカー少佐は驚愕し

 ブッカー少佐の所属する特殊戦は、“味方を見殺しにしても必ず帰還せよ”という非情ともいえる任務を行わなくてはならないため、隊員には自己を犠牲にしてまで他人のために骨を折るような者は一人もいなかっ

 つまり命令といえども自己の任務とまったく無関係な儀仗兵役をやる者などいないことは容易に想像がつい

 『わかりました』と返答はしたものの困り果てたブッカー少佐は、階級を超えて親しい友人の深井零中尉を呼び出し

 特殊戦三番機雪風のパイロット深井零中尉は、作戦行動中にシルフィードを撃墜した容疑で軍事法廷にかけられ、判決が出るまでの間飛行を禁じられてい

 『自分には関係ありません』

 ブッカー少佐から話を聞いた深井中尉は、即答した。少佐の趣味のブーメランにつきあって地上に出ていたときだっ

 予想された通りの答えだっ

 クーリィ准将からの呼び出しを受けて、万策尽きたブッカー少佐と共に戦闘機用の巨大なエレベーターに乗って地下基地に戻る途中、深井中尉はふとした思いつきを、ためらい迷いながらも口にし

 『ブッカー少佐、人形を作ってみてはどうでしょうか。日本空軍の参謀は近眼で老眼です。せいぜい行進して挙手するだけなら、きっと人形でも大丈夫です』

 ――ブッカー氏は当時を振り返ってこう語る。

「いや、最初はコイツ正気かと思いましたよ。いくらなんでも人形なんてね。でも等身大の汎用歩行モジュールさえ使えれば何とかならないこともないような気がしたので、私は答えました。工場で可能性をあたってみるから、おまえがまず准将を説得してみせろと。それができないなら儀仗兵をやれと。そうしたら本当に准将を説得してしまったんです。おそらく私がやったのではうまくいかなかったでしょう。あれはまさしく深井中尉の熱心な若さというか、合理性を超越した不経済な情熱の賜物です」

 深井中尉の小一時間に及ぶ説得に、クーリィ准将はやっとその重い口を開い

『わかった。そこまで言うのならやってみなさい。責任は私が取る』

 クーリィ准将の正式な許可が下りたおかげで、ブッカー少佐は工場の自動工作機械を自室の端末から使えるようになり、部屋にいながらにして設計と試作を同時進行することができ

 ――十日後、昼夜を分かたぬ突貫作業によって試作人形の骨格が完成し

 特殊戦の格納階に運び込まれ電源を入れられた試作一号機は、隊員たちが見守る中、歩行テストを開始したその一歩目で転倒し

 ブッカー少佐の顔から血の気が引い

 転倒の原因は、試作品に使われた材料だっ。設計時に想定していた材質よりも強度が劣ってい

 しかしもう設計を変更する時間は残されていなかっ。クーリィ准将もそれを承知の上で決断し

『このままで構わない。すぐに量産ラインに載せるように』

 ブッカー少佐を中心とした開発チームは、ただちに改善策を模索し

 (略)作業は難航した。(略)

 そして本番の前日、36体の人形が完成し

 人造皮膚製の、一体ずつ異なる精悍で精密な顔は名誉の戦死者のものだっ

 ロボットたちは、ブッカー少佐のマイクからの指令で一糸乱れずに行進・停止、捧げ銃を行っ

 フェアリイ空軍初の、無人化された部隊の誕生だっ

「はい、閣下! 光栄であります!」

 儀仗兵団の放つ力強い声を聞いたとき、ブッカー少佐の頬を熱いものが流れ。クーリィ准将も泣いてい。深井中尉も、ブッカー少佐に向けて親指を立て微笑んだ。

 ――そして本番当日、見事に日本空軍参謀指令を目を欺いた儀仗兵団は、その後も改良を加えられて増員し、今日も地球からの賓客を出迎える任務を担当している。

 ブッカー氏は語る。

「いややっぱりね、深井中尉の不経済な情熱の勝利ですよ。彼があの思いつきを口に出さなかったら機械じかけの儀仗兵団なんてありえませんもの」

(EDテーマ:『ヘッドライト・テールライト』/歌:リディア・クーリィ)


制作:FAF-TVサービス

参考文献:神林長平著早川書房刊『戦闘妖精・雪風〈改〉』


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